TOPへ

いびき外来/睡眠時無呼吸症

いびきと睡眠時無呼吸症

いびきと睡眠時無呼吸症(SAS)は、単なる睡眠の問題ではなく、心臓や血管の健康にも深く関わる重要な疾患です。これらの症状は、循環器疾患の発症リスクを高めるため、循環器内科でも特に注目されています。

循環器内科では、心臓や血管だけでなく睡眠に関連する疾患も包括的に診療し、患者さんの生活の質(QOL)を向上させる治療を目指しています。いびきが強く日中の眠気がある場合や、高血圧や心疾患をお持ちの方は、睡眠時無呼吸症の検査を積極的に検討してください。

いびきは、上気道が狭くなることで発生する振動音です。いびきそのものは必ずしも危険ではありませんが、睡眠時無呼吸症を伴う場合は特に注意が必要です。

睡眠時無呼吸症は、睡眠中に10秒以上呼吸が停止する「無呼吸」や、気流が極端に減少する「低呼吸」が頻繁に発生する状態です。酸素供給が一時的に途絶えます。

具体的には、以下の基準が用いられます:

  • AHI(無呼吸低呼吸指数):1時間あたりの無呼吸・低呼吸回数が5回以上
  • または、7時間の睡眠中に30回以上の無呼吸が確認される場合

注意が必要ないびき、睡眠時無呼吸症の症状

睡眠時無呼吸症は以下の症状を引き起こすことがあります。

夜間の症状

  • 大きないびき
  • 呼吸が止まる
  • 頻繁な寝返りや目覚め
  • 夜間頻尿

日中の症状

  •  強い眠気
  • 集中力や記憶力の低下
  • 朝の頭痛
  • 倦怠感や疲労感

睡眠時無呼吸症の循環器系への影響

高血圧の悪化

睡眠時無呼吸症により低酸素状態が続くと、交感神経が過剰に活性化し、血圧が上昇します。これは特に夜間の血圧上昇を引き起こし、通常の高血圧治療で改善しにくい「治療抵抗性高血圧」をもたらす場合があります。

心臓への負担

低酸素状態と頻繁な覚醒により、心拍数が変動し心臓に負担がかかります。これが心房細動などの不整脈や心不全のリスクを高めます。また、虚血性心疾患(狭心症や心筋梗塞)の発症リスクが上昇します。

動脈硬化の促進

酸素が不足し、再び供給されるというサイクル(再酸素化)は、血管内で酸化ストレスを引き起こします。この過程が血管を傷つけ、動脈硬化を促進します。

不整脈の発生

睡眠時無呼吸症患者の約50%に不整脈が認められるとされ、特に睡眠中に心房細動が発生しやすくなります。

脳卒中

長期的な酸素不足が脳血管に影響を及ぼし、脳卒中の発症リスクを高めます。

睡眠時無呼吸症の診断と検査

睡眠時無呼吸症の診断には、以下の検査が用いられます:

簡易検査

  • 自宅で専用機器を用いて行います。呼吸や血中酸素飽和度を測定するため、比較的手軽です。
  • AHIの評価が可能ですが、詳細な情報は得られません。

精密検査(睡眠ポリグラフ検査: PSG)

  • 専門施設で行う検査で、脳波や眼球運動、筋電図、心拍数、酸素飽和度などを詳細に記録します。
  • 精度が高く、SASの重症度を正確に診断できます。

睡眠時無呼吸症の治療方法

睡眠時無呼吸症の治療は、症状の重症度や患者さんの状況に応じて選択されます。

CPAP療法(持続陽圧呼吸療法)

  • 鼻マスクを装着し、気道に空気を送り込むことで閉塞を防ぎます。
  • 中等症~重症の睡眠時無呼吸症患者に対して、最も有効とされる治療法です。

マウスピース療法

  • 下顎を前に引き出すことで、気道を広げる装置を使用します。
  • 軽症~中等症の患者に適しています。

手術療法

  • 鼻中隔のゆがみや扁桃肥大など、解剖学的な要因が原因の場合に行います。

生活習慣の改善

  • 適正体重の維持:肥満は気道を圧迫し、SASを悪化させるため減量が重要です。
  • 禁酒・禁煙:アルコールや喫煙は気道を狭くし、いびきを悪化させます。
  • 睡眠姿勢の工夫:仰向けでなく横向きで寝ることで、気道の閉塞を防ぎます。

CPAP療法

CPAP(Continuous Positive Airway Pressure)療法は、睡眠時無呼吸症(SAS)の治療において最も効果的な方法の一つです。この療法では、鼻マスクを通じて気道に一定の圧力をかけた空気を送り込み、気道の閉塞を防ぎます。その結果、無呼吸や低呼吸が改善され、睡眠の質が向上します。特に中等症から重症のSAS患者に推奨される治療法です。

CPAP療法のメリット

#### **1. 即効性のある効果**
CPAP療法は、使用を始めたその日から効果が実感できます。
- **いびきの改善**:ほとんどの患者で、治療開始直後からいびきが軽減または消失します。
- **無呼吸の解消**:気道閉塞が防がれ、睡眠中の無呼吸や低呼吸が即座に改善します。

#### **2. 睡眠の質の向上**
治療によって睡眠の分断が防がれ、深い眠りが得られるようになります。これにより、以下の効果が期待されます:
- **朝の目覚めがすっきり**:熟睡感が得られ、疲労感が軽減されます。
- **日中のパフォーマンス向上**:眠気や集中力の低下が改善され、仕事や運転などの日常生活がスムーズになります。
- **精神面の安定**:良質な睡眠によってストレスが軽減され、精神的健康も向上します。

#### **3. 循環器系への好影響**
CPAP療法は、心臓や血管への負担を軽減し、循環器疾患のリスクを下げる効果があります:
- **血圧の低下**:特に夜間の高血圧が改善し、血圧全体が安定します。
- **不整脈の予防**:心房細動などのリスクが低減されます。
- **心疾患の予防**:心筋梗塞や狭心症などの虚血性心疾患のリスクを軽減します。
- **脳卒中のリスク低下**:安定した酸素供給により脳血管への負担が減少します。

#### **4. 副作用が少なく安全**
CPAP療法は非侵襲的で安全性が高く、重篤な副作用がほとんどありません。装置の調整や使用方法の工夫で、軽度な不快感も改善可能です。

#### **5. 生存率の向上**
特に重度のSAS患者では、CPAP療法の使用により死亡率が低下することが報告されています。循環器疾患を予防することで、寿命の延長が期待できます。

#### **6. 長期的な生活の質(QOL)の向上**
CPAP療法は、患者自身だけでなく、家庭や職場環境にもポジティブな影響を与えます:
- **家庭での良好な人間関係**:いびきの消失により、同居者やパートナーの睡眠環境が改善されます。
- **健康全般の向上**:良質な睡眠が全身の健康を支えます。
- **活動意欲の増加**:睡眠不足が解消され、仕事や趣味への意欲が高まります。

---

### **CPAP療法のデメリット**

#### **1. 継続使用の必要性**
CPAP療法は対症療法であり、根本的な治療ではありません。そのため、毎晩継続的に使用する必要があり、治療を中断すると無呼吸症状が再発します。

#### **2. 装着の不快感**
鼻マスクやヘッドギアの装着に慣れるまで、違和感や寝苦しさを感じることがあります。特に治療開始直後に多い問題ですが、多くの場合、時間とともに適応します。

#### **3. 機器の音の問題**
装置が稼働中に出す音が、睡眠の妨げになる場合があります。近年の装置は静音性が向上していますが、敏感な方にとっては課題となることがあります。

#### **4. コスト負担**
CPAP装置のレンタル費用や消耗品(マスクやフィルター)の交換に一定の費用がかかります。保険が適用される場合が多いものの、長期的にはコストが発生します。

#### **5. 持ち運びの不便さ**
旅行や外泊の際に、CPAP装置を持参する必要があります。小型の装置も開発されていますが、荷物が増える点は避けられません。

#### **6. 軽度な副作用**
CPAP療法は重篤な副作用が少ない一方で、以下のような軽度な不快感が生じることがあります:
- **鼻や口の乾燥**:空気の流れによる乾燥感が生じますが、加湿器付きの装置で改善可能です。
- **鼻づまりや鼻水**:気流に適応するまで一時的に発生する場合があります。
- **腹部の張りやおなら**:空気を飲み込むことで起こることがありますが、圧力設定の調整で改善します。
- **皮膚トラブル**:マスクが当たる部分のかぶれや赤みが生じる場合があります。マスクの調整や保護パッドの使用が有効です。
- **目や耳の不快感**:マスクの空気漏れや圧力変化が原因となりますが、装置の調整で軽減されます。

---

### **まとめ**

CPAP療法は、睡眠時無呼吸症候群(SAS)の治療において即効性が高く、循環器疾患のリスクを大幅に軽減する効果的な治療法です。特に重度のSAS患者にとっては、生命予後を改善し、生活の質を向上させる重要な選択肢です。

一方で、装着の不快感や軽度の副作用、継続使用の必要性といった課題もあります。ただし、多くのデメリットや副作用は、装置の調整や医師との連携によって解消可能です。患者一人ひとりのライフスタイルやニーズに合わせた治療プランを立てることで、CPAP療法を快適に続けることができます。

早期に専門医を受診し、自分に合った治療法を見つけることで、より健やかな生活を送ることができます。